ボードゲーマー的にみるこの国の憲法の改憲是非

今度の参議院選挙は、あまり論議にはなっていないが改憲されるか否かの分岐点にあります。普段私の自己紹介ではCatan日本チャンピオンという肩書が一番受けもいいようなので、ボードゲーマー的な視点から「改憲すべきでない」という話をしようと思います。

勝利条件の確認:勝つことよりも負けないこと

まず、ゲームのルール、勝利条件の確認です。憲法というのは「国のかたち」を設定するものです。国とは「国土・国民」があっての「政府」ですね。ですから勝利条件はどんなに「国土・国民を拡張」しても「次世代の国土・国民を毀損すること」があれば、その時点で敗北、であるということを認識すべきです。

しかし、自民党改憲案(http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf)を見る限り、「グローバル競争に勝ち残る」ことと「国防軍による交戦権」ことの明記にやっきになっていて、一ボードゲーマーとしては「良くない流れ」に乗っかろうとしているようにしか見えません。前者は内田樹さんのblog(http://blog.tatsuru.com/2013/07/12_1234.php)が私よりも明察を持って書かれているので、ここでは後者について。明らかに国土・国民よりも政府を上に置こうという野心が見え隠れし、その結果、憲法とは「国際社会での外交・関係性において最も重要な手札の1つである」という視点に曇りがあるように見えます。本人たちはこれで「交戦権」という外交カードを得て有利になっているつもりだと思いますが、それは思い違い、という話をこれからしていきます。

能ある鷹は爪を隠す

多人数ボードゲームに勝つ(負けない)には、共通する一つの大きなコツがあります。それは「本当は勝っている(有利)なのに、そうは見られていない」ということです。つまり、「実勢」と「見た目」に関して2x2の4通りのうち

  1. 「実勢」有利 「見た目」不利 (実勢>見た目)
  2. 「実勢」不利 「見た目」不利 (不利)
  3. 「実勢」有利 「見た目」有利 (有利)
  4. 「実勢」不利 「見た目」有利 (見た目>実勢)

の順で、状況としては望ましい。というのも、多人数ゲームというのは、どんなに頑張っても自分1人よりも他の3人なり4人なりが力を合わせた方が強く、よほどの国力がない限りは「出る杭」になるとあっさり叩かれるからです。
それでもさすがに終盤になってくると「実勢」も「見た目」も有利な方が、両方不利な方よりはよいですが、終盤まで遠ければ遠いほど、上記の順で「いい状態」となります。虚栄心にひきずられて(実勢が下がってきたときについ頭をもたげる)、実勢以上に見た目をよくしようとすると、一番最悪です*1

そして、「国を保つ」というゲームは、ゲームと異なるのは終盤が「ない」ということです。つまりずっと、実勢はあるのに、見た目は不利で侮られている状況が最も好ましいのです。

今の憲法9条自衛隊、という状況が至適

さて、そういった目で今の憲法9条自衛隊の存在を考えてみるといかがでしょうか?

「実際の軍事力は持っている」のに「軍事行使権」はない(と思われている。宣言している)。

前述のように、まさにとても「(外交的には)いい状態」です。
このことに、「物足りなさ」や「我慢できない方」というのは一般市民としてはとてもセンスの優れた方で、愛される方だと思います。でも残念ながら「外交センス」「ボードゲームのセンス」は低いと言ってよいでしょう。もっとも、99.9%の人はそちらの方がよいことだと思います。

しかし外交の基本は「譲歩」です。正確には互いの目的が衝突した場合に「自分にはあまり痛手のないところで大きく譲歩し、痛手になるところは譲歩しない」。つまり「見た目大幅譲歩(不利)、実勢小幅譲歩」でお互いにWin-Winを勝ち取るものです。関税交渉なんかでは明確ですね。

ですから、「自衛軍があって、憲法的には海外派遣が禁じられている」、けど「譲歩して、海外派遣する」から感謝されるわけで、「憲法で海外派遣が謳われている」から「海外派遣する」ではなんの感謝もされません。(日本国内で野党から多少叩かれようと、国内のガス抜きだと思って気にするべきではないでしょう)


そして何よりも、外交は「選択肢のフリーハンド」です。「全く交戦できない(軍事力がなかった場合一択)」、「交戦できる(改憲)」よりも、「規約では交戦できない、けど、軍事力的には交戦できる(今の状態)」の方がベターです。何しろ99%の時間は「交戦しない方が有利」な状況なのですから。


 極東の島国で、いい意味でも悪い意味でも外交センスが育ちようのなかった日本が、こんなに至適な状況に居るなんて奇跡のようです。第二次世界大戦という尊い犠牲を払って得た見えない財産と言ってよいでしょう。


改憲することによって実は失う「見えない」財産がもう一つあります。

  • 「60年以上変えてこなかったので」というリソース

です。60年間、変えてこなかったので、というリソースはなかなか得ることはできません。60年間かかります。これは相手に対して強い外交カードになります。(譲歩を印象付ける意味でも)

このことに述べるとすると、「兵站」の話をすることになり、長くなりますなので、とりあえずこのあたりで。


ですから声を大にして言います。「憲法を護るべきです」もっと正確に言いますと

  • 憲法(では交戦できないのに、軍事力的には交戦できる現在の二重状態)を護るべきです」

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

蛇足:どうしても改憲するというのなら・・・(注:ジョークです)

下記条文を入れるなら、賛成してもいいかな・・・

第九条のニ 7:国防軍、またそれを統制する立場に就く者は、外交センスのためボードゲームDiplomacyを10回以上プレイしていることを必須とする*2

*1:あと、前評判がある、なんていう例もあります。分かりやすいのが「日本チャンピオンだから」という理由で序盤から警戒された場合です(完全な実勢不利、見た目有利状態)交渉ゲームの場合、手も足も出ません^^;

*2:Diplomacyは外交をテーマにしたボードゲームの金字塔ですが、そのプレイ時間と、概ね日本人の外交センスの低さ(←個人の人格と、プレイ人格の分離が進んでいない)のため、ゲーム上の裏切りを個人の裏切りに感じ、2度目以降のプレイがほとんど行われない"サークルクラッシャー"ゲームとして有名です。なのでこの条項は「ありえない」という意味でもありますし、「それくらい成熟したならOKかな」という意味でもありますw なお、作者http://www.nytimes.com/2013/03/07/us/allan-calhamer-inventor-diplomacy-board-game-dies-at-81.html?pagewanted=all&_r=0:死亡記事ハーバード大在籍時代に作ったもので、ルールの説明はhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%9E%E3%82%B7%E3%83%BC:Wikipeiaにあります